Buddy Guy/バディ・ガイ@〜シカゴ・ブルースのカリスマ


昨年の1月の終わり、友人のMさんがバディ・ガイのCDを送ってくださった。
Mさんのご厚意にはいつも感謝している。
私がさまざまな音楽を聴くきっかけを与えてくださるからだ。

CDには、ジュニア・ウェルズのリーダー作「フードゥーマン・ブル−ス/1964」と
バディ・ガイのリーダー作「スリッピン・イン/1994」、
「アローン&アコースティック/1991」、「フィールズ・ライク・レイン/1993」
という4枚のアルバムから19曲が抜粋されて入っていた。

私がバディをよく聴いていたのは、はるか彼方の学生時代。
あの頃はジュニア・ウェルズとのカップリングでバディのギターを聴いていた。
バディのギターは情熱的で好きだったが、
ジュニアの個性があまりにも強烈だったため、
どうしてもジュニアの歌とハープに耳がいってしまい、
私にとってバディはジュニアのバックという認識しかなかった。

ところがMさんが送ってくださったCDを聴いた時
私は一瞬にして
バディのギターがこんなにも魅力的だったのかという思いに
打ちのめされたのである。
それは「スリッピン・イン」に入っていた『I Smell Trouble』を聴いた時だ。
まず曲の始まり部分がカッコよく、聴いた瞬間強い衝撃を受けた。
ドラムが入った直後、
バディのギターがゆったりとしたフレーズを奏でる。
そのボリューム感と華麗さに思わず目から鱗が落ちてしまった。

ギター・ソロでは男の意地を見せるかのような
大胆かつ扇情的なフレーズを奏でるバディ。

ベースの音はズシンと胸に響いてくるぐらい低く重い感じで
バディのブルースにより一層の重厚感をもたらしていた。
ドラムとのコンビネーションも素晴らしく、
ギター・ソロが始まってちょうど4小節目、
ベースの音とバス・ドラムの音が絶妙に重なる瞬間があり、
それが何ともクールで
そこの部分だけ何回も聴いてしまったぐらいだ。
ピアノも流麗な雰囲気で洗練されており、
バディが左手を弦の上でスライドさせた時に出た摩擦音も
効果的に入っていた。

バックは白人ブルースマンの故スティーヴィー・レイ・ヴォーンの
バックバンドだった「ダブル・トラブル」が担当しているらしい。

『Someone Else is Steppin' in』も鳥肌ものだ。
これがバデイ・ライヴの凄まじさなのかと実感できるほどである。
テンションを下げたかと思ったら、いきなりバディは吠えるように歌い
ギターを奔放にかき鳴らす。まわりの声援も尋常でない。
曲が持つグルーヴとバディの嵐と静けさを両方合わせ持ったようなノリに
まわりの聴衆も手拍子をしながら一丸となって応えている。
曲が終わった後、大歓声がドっと湧き起こった。

次の『Trouble Blues』ではブルースのアンニュイさや憂いを
バディがけだるく寂しげに歌っていた。

バディの歌もギターと同じく非常に情感がこもっており、
ラヴ・ソングでは恋に一喜一憂する男の気持ちを自然な形で表現している。


私は早速『I Smell Trouble』を音楽仲間のTさんに聴かせた。
Tさんも音楽をよく聴くが趣味が少し違う。
しかし最近ようやくブルースにも興味を持ち始め、
BBやマディなど著名なブルースマンのDVDを観てくれるようになった。

そのTさんが聴いてすぐ「めちゃくちゃカッコイイギターだね!
華があるよね・・・これぞ男っていう感じのギターだよね。」
と言ったので、
私は「そうでしょ!」と言いながら内心嬉しくてたまらなかった。

その後バディに対して熱を入れ始めたのはTさんの方だった。
いつの間にか次々とバディが出ているDVDを注文していた。
ただ残念なことに、
バディのワンマン・ライヴを単独で録画したビデオやDVDは見当たらないそうだ。

「シカゴ・ブルース」に加えて「A TRIBUTE TO STEVIE RAY VAUGHAN/1995」
「ERIC CLAPTON CROSSROADS GUITAR FESTIVAL/2004」も購入し、
60年代最後の伝説的ジャム・セッションを録画した
「スーパーショウ」なるDVDまでTさんは買っていた。
これらのDVDには全てバディ・ガイが出演している。
「だいぶ高い買い物になってしまったけれど、
バディのプレイを見れただけで大いに満足したよ。」と彼は言っていた。

私もTさんに勧められて
「ERIC CLAPTON CROSSROADS GUITAR FESTIVAL/2004」
(2004年6月4日から3日間に渡ってテキサス州のダラスで行われた
クラプトン主催のクロスロード・ギター・フェスティバル)を購入した。
このフェスティバルは、クラプトン自身が開設したことで知られる
アルコール/ドラッグ中毒者のための更正施設
<クロスロード・センター>の運営資金を確保するために
クラプトンがギタリスト達に呼びかけて開催したライヴである。

クラプトンを始め、B.B.キングやバディ・ガイも出演しているし、
他にもジェフ・ベック、カルロス・サンタナ、ヒューバート・サムリン
ロバート・クレイやラリー・カールトン、ジミーヴォーンも参加している。

この時大観衆の前で見せたバディのパフォーマンスは
忘れることができない。
バデイは全身黒という装いでパナマ帽をかぶり
ニコニコしながら姿を現した。
手には黒地に白の水玉がちりばめられたあのストラトを持っている。
赤いストラップにはハートの模様が入っており、
シルバーの刺繍がまわりに施されてた。

バックは73歳になるヒューバート・サムリン、そしてクラプトン、
ジミーヴォーン(スティーヴィー・レイ・ヴォーンの兄)、
ロバート・クレイといったそうそうたるギタリストの面々。

バディによって、有名な『Sweet Home Chicago』のリフが始められる。
ロバート・クレイがインタビューで話していた。
「バディはユニークで何を考えているのかわからない。
みんながその意味を知る前からサイケデリックで
必要な時には完全にブルースなんだ。彼はショウの達人だ。
バディとステージにいる時は鷹のように彼を見ていなくてはならない。」

本当にその通りだ。
バディのプレイはいつ観ても飽きない。
いつも何かしら心に残るパフォーマンスを見せてくれる。

この時も歌が始まって3コーラス目にバディのテンションが上がってきて
自然に身体が動き出してしまい、マイクの前から急に離れてしまった。
その時バックで弾いていたクラプトンやジミー・ヴォーンは苦笑しながらも
「何だかわからないけど凄いよ!」といった表情でバディを見ていた。
ロバート・クレイはインタビューどおり、笑みを浮かべながら
鷹のようにバディをウォッチングしていた。

バディとロバート・クレイがギターを掛け合う時、バディはしきりに「Come on!」と
ジェスチャーしながらクレイを挑発する。
いくつになっても少年のようにはしゃぐバディの様子がおもしろくて
ついつい真剣に見てしまう。
ロバート・クレイも力みながらハイ・ポジションでギターを弾き
ブラザー同士の意思疎通に余念がなかった。

こうして私も徐々にバディ・ガイのファンになっていき、
バディ・ガイの自伝『アイ・ガット・ザ・ブルース』を読んでみようと
思うようになったのである。

<05・6・7>






Buddy Guy







「Slippin' In」